銀魂七巻 第五十五訓その後捏造。
月凪
水面に満月が揺れている。橋の下の色濃い影に隠れ、気配を消すために他のものに気を散らした。
ずっと走っていたせいでまだ息が荒い。巻き物で口元も隠した。
「そっちはどうだ」
「いや、見つからん」
真選組の野郎だろう。全く。折角の満月なのに今夜もまともに夜空を見られそうもない。
俺はこの町の端へ向かおうとしていた。一つのところに留まり過ぎた。同志のもとへ帰るのも今はまだ危ないだろう。
だからこうして身を隠しながらエリザベスの合図を待っているのだ。あたりに真選組がうろついていれば、もしかしたら今夜はここで過ごすことになるかもしれない。
「橋の下は見たか?」
片方の男の声にどきりとする。左に差した刀に手を伸ばす。
「さっき見た。戻ろうぜ。遅いとどやされる」
二つの足音が遠ざかっていく。
ほっと息を吐き、暗がりから隔離された空を見上げる。そしてそこにはない光を求めて水面を見た。
そうしていると、あの人の顔が浮かんだ。見えない月。水面に揺れる月はあの人の髪の色に良く似ている。
今頃どうしているだろう。また洗濯物でもしてるんだろうか。下着泥棒に襲われてなどないだろうな。
死んだ夫の弟とはちゃんとやっているのだろうか。俺がいなくなって店の方は大丈夫なのか。
揺らめく月を眺めてそんなことを思う。そういえば腹が減ってる。
居候させて貰っていた時は三食中華蕎麦だったが、その味が舌に蘇る。
あの灯り。あの声。あの顔がもう懐かしい。
もう少し…あそこに居たかったのかもしれない。
月に浮かんでいた顔が笑った時、川に石が投げられ、月がぶれた。思い浮かべていた顔も乱れて消えた。
はっと意識を戻され、思わず上を見上げる。
エリザベスが迎えに来た合図だ。どうやら寝床が確保できたらしい。
草の上から立ち上がり、川原の勾配を登る。
空を仰いぐ。もう振り返れないこの月に思った。
いつかまた、どこかで。
勢いで書いてしまいました。調子に乗りました。
でも反省はしてません。桂書くの楽しかったです。
2007.09.12.志筑トキ
「四角い部屋」の志筑トキ様からいただきました!!
初対面にして桂幾語りをしてしまい(おい)失礼だったなぁと反省したのですが。
書いてくれました…!!
嬉しすぎてもう…ほんと感激です!!
シュチュエーションも切なさも桂のかっこよさも全部含めてこのお話大好きです。
素敵な小説をありがとうございました!!